ナイル川のほとりで花開いた古代エジプト文明。そのピラミッドや神々の謎めいたイメージだけでなく、彼らの「ファッション」が非常に洗練されていたことをご存知でしょうか。数千年の時を超え、現代の私たちにも影響を与え続けているエジプトのファッションには、その気候、文化、社会構造が色濃く反映されています。この記事では、古代エジプトの人々がどのような服をまとい、どんな装飾品で身を飾っていたのか、そしてそのスタイルが現代にどう受け継がれているのかを詳しく解説します。
記事を読むことでわかること
- 古代エジプトの基本的な衣服の種類（カラシリス、シェンティなど）と主な素材
- ファラオから一般市民まで、身分によって異なったファッションの特徴
- 男女ともに共通していたメイクアップやウィッグなどの美意識
- 古代エジプトのスタイルが現代のファッションデザインに与えている具体的な影響
古代エジプトファッションの基本と特徴
シンプルさの極致？主な衣服と素材
古代エジプトのファッションの根幹をなすのは、そのシンプルさと機能性です。エジプトの灼熱の気候に適応するため、衣服は主に亜麻（リネン）から作られました。リネンは通気性が良く、軽量で、洗濯もしやすいという特徴があります。最も一般的だったのは、男女ともに着用した「カラシリス」と呼ばれる貫頭衣（頭を通す穴を開けただけのシンプルなワンピース状の衣服）や、男性が腰に巻いた「シェンティ」と呼ばれる腰布（キルト）です。新王国時代になると、より複雑なドレープやプリーツ（ひだ）が施された衣服も登場しますが、基本的な構造はシンプルさを保っていました。衣服の色は、漂白されたリネンの白が最も一般的で、純粋さの象徴とされましたが、植物染料による赤や青、黄色などの衣服も存在しました。
衣服に込められた意味と色彩
古代エジプトのファッションにおいて、色は単なる装飾以上の意味を持ちました。白は清らかさや神聖さを表し、神官や儀式の際の服装として好まれました。一方で、赤は生命力や活力を、青はナイル川や空、神々を象徴する色として重視されました。特にラピスラズリのような青い宝石は非常に価値が高いとされました。緑は再生や豊穣を意味し、マラカイト（孔雀石）などがアイメイクにも使われました。これらの色彩は、衣服そのものよりも、むしろアクセサリーや装飾品、そしてメイクアップで積極的に取り入れられ、身につける人の地位や願いを表現する手段となっていました。
気候と生活様式がファッションに与えた影響
エジプトの気候は、一年を通して高温で乾燥しています。このため、ファッションは必然的に「涼しさ」と「日差しからの保護」を重視したものになりました。薄手のリネン素材が主流であったのは前述の通りですが、多くの人々、特に労働者階級は裸足で過ごすことが一般的でした。一方で、日差しを避けるため、または儀礼的な意味合いから、男女ともにウィッグ（かつら）を使用する習慣が広まりました。ウィッグは人毛や植物繊維で作られ、黒く染められることが多かったです。また、裕福な人々はサンダルを履いていましたが、これもパピルスや革で作られたシンプルなものでした。このように、エジプトのファッションは、ナイル川流域の厳しい自然環境に適応する中で、独自のスタイルを確立していったのです。
身分と性別で見るファッションの違い
ファラオと王族の神聖なる装い
古代エジプト社会の頂点に立つファラオ（王）のファッションは、その権力と神聖性を示すために、豪華絢爛なものでした。ファラオは、最高級の透けるような薄いリネンをまとい、金やラピスラズリ、ターコイズ、カーネリアンといった貴石をふんだんに使った「ウセク」と呼ばれる幅広の首飾りを身につけました。また、王の象徴である縞模様の頭巾「ネメス」や、儀式用の「アテフ冠」などの冠、そして神聖な儀式の際には「付け髭」を装着することもありました。これらは単なる装飾品ではなく、ファラオが神の代理人であることを示すための重要なアイテムでした。王妃や王女たちも同様に、精巧な金細工のジュエリーや、美しいビーズ刺繍が施されたドレスを着用していました。
貴族と一般市民の服装格差
ファラオや王族に次ぐ貴族階級もまた、豊かなファッションを楽しんでいました。彼らはより上質で、細かいプリーツが施されたリネンの衣服を着用し、多くの装飾品で身を飾りました。一方、農民や労働者といった一般市民の服装は、はるかに質素でした。男性は多くの場合、シンプルなシェンティ（腰布）のみを身につけ、女性は体にフィットしたカラシリスを着用していました。素材も、貴族が使うような上質なリネンではなく、より粗い織りのものが一般的でした。しかし、身分に関わらず、人々は可能な範囲で装飾品を身につけようとしました。一般市民は、粘土やファイアンス（釉薬をかけた陶器）、貝殻、色ガラスなどで作られたビーズのネックレスやブレスレットを楽しみました。
男女の美意識とメイクアップ文化
古代エジプトのファッションで特筆すべきは、男女ともに高い美意識を持っていた点です。特にアイメイクは、性別や身分を問わず広く行われていました。「コール」と呼ばれる黒い顔料（方鉛鉱など）で目の周りを縁取るアイラインは、現代にも通じる特徴的なスタイルです。これは単に美しさのためだけでなく、強い日差しから目を守り、虫除けや魔除けの効果があると信じられていました。また、緑色のアイシャドウ（マラカイト）も使用されました。さらに、ウィッグ（かつら）の使用も一般的で、特に上流階級では、手入れの行き届いた精巧なウィッグがステータスシンボルとなりました。パーティーの際には、香油を染み込ませた円錐形の「香油コーン」を頭の上に載せ、体温でゆっくりと溶かして香りを放つという、洗練されたおしゃれも行われていました。
現代に息づくエジプトファッションの影響
永遠の定番？アイメイクとアクセサリー
古代エジプトのファッションが現代に与えた最も顕著な影響は、やはりメイクアップでしょう。特にコールで目を強調するアイラインの技法は、現代のアイメイクの原型とも言えます。また、大ぶりで幾何学的なデザインのネックレスや襟（カラー）のような首飾りは、古代エジプトのウセク（幅広の首飾り）から着想を得たものです。現代のファッションショーやアクセサリーデザインにおいて、「エジプト風」と称されるアイテムの多くは、この特徴的な首飾りや、スカラベ（フンコロガシ、再生の象徴）やアンク（生命の象徴）といったモチーフを取り入れています。
デザイナーたちを魅了する「エジプトマニア」
20世紀初頭、特に1922年のツタンカーメン王墓の発見は、ヨーロッパを中心に爆発的な「エジプトマニア（エジプト趣味）」ブームを引き起こしました。このブームはファッション界にも多大な影響を与え、当時のアール・デコ様式と融合し、直線的なシルエットのドレスや、蓮（ロータス）やパピルスをモチーフにしたデザインが流行しました。それ以降も、エジプトの神秘的な魅力は多くのファッションデザイナーにとって尽きないインスピレーションの源泉となっています。例えば、ゴールドを基調とした豪華な刺繍、シースルー素材のドレープ、プリーツ加工などは、古代エジプトの衣装を彷彿とさせ、現代のクチュール（高級注文服）の世界でたびたび再解釈されています。
現代ファッションに溶け込むエジプトの要素
古代エジプトのファッション要素は、特別なコレクションだけでなく、私たちの日常の服装にも溶け込んでいます。例えば、夏に愛用されるリネン素材のシャツやワンピースは、古代エジプトの人々が愛用した素材そのものです。また、体にフィットするシンプルな「シースドレス」のシルエットは、古代エジプトの女性が着ていたカラシリスのラインと共通するものがあります。サンダルという履物も、その起源は古代エジプトに遡ることができます。このように、数千年の時を経てもなお、エジプトで培われた機能的で洗練されたファッションのDNAは、現代の私たちのスタイルの一部として生き続けているのです。
まとめ
- 古代エジプトのファッションは、ナイル川流域の高温乾燥な気候に適応して発展しました。
- 主要な衣服の素材は、通気性に優れた亜麻（リネン）でした。
- 男性の基本的な衣服は「シェンティ」と呼ばれる腰布（キルト）でした。
- 女性の基本的な衣服は「カラシリス」と呼ばれる貫頭衣やシースドレスでした。
- 衣服の色は漂白された白が主流で、純粋さの象徴とされました。
- 赤、青、緑などの色も使われ、それぞれ生命力や神聖さ、再生などの象徴的な意味を持ちました。
- ファラオや王族は、最高級のリネンや金、貴石をふんだんに使った豪華な装いをしました。
- ファラオの象徴には、「ネメス」頭巾や儀式用の「付け髭」などがありました。
- 貴族階級は、細かいプリーツ加工が施された上質なリネンの衣服を着用しました。
- 一般市民の服装は、より粗い素材のシンプルな腰布やドレスが中心でした。
- 身分に関わらず、装飾品は人気があり、市民は陶器や貝殻のビーズを楽しみました。
- 古代エジプトでは、男女ともに高い美意識を持っていました。
- 「コール」（黒い顔料）を使ったアイラインは、性別を問わず広く行われました。
- このアイメイクには、日差し除けや魔除けといった実用的な意味もありました。
- 緑色のマラカイト（孔雀石）などもアイシャドウとして使用されました。
- ウィッグ（かつら）の使用も一般的で、特に上流階級のステータスシンボルでした。
- 人々は裸足で過ごすことが多かったですが、裕福な層はパピルスや革製のサンダルを履きました。
- 現代のアイメイクの技法は、古代エジプトのコールに大きな影響を受けています。
- 大ぶりのネックレスや襟のようなアクセサリーは、古代エジプトの「ウセク」首飾りに着想を得ています。
- 1922年のツタンカーメン王墓発見は、ファッション界に「エジプトマニア」ブームを巻き起こしました。
- 現代のリネン素材の衣服やシースドレスのシルエットにも、古代エジプトのファッションの影響が見られます。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。エジプトのファッション、魅力的ですよね。アイメイクなんて現代のアイメイクと遜色ないし、かつらなんかも使用されていたんですね。なんなら現代よりもオシャレだったのではないかなーと思います。香油なども使用されており、華やかな社会だったんでしょう。古代のイメージが変わってきますよね。
ぜひともこのブログが、エジプトへと旅立つきっかけになると幸いです。
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